『警察学校編~伊達航~』

名探偵コナンの公式スピンオフ作品『警察学校編』では伊達航編がスタート。

伊達「誰よりも強くなければ…正義は遂行できねぇんだよ!!」

伊達の語る正義とは一体何を指しているのでしょうか。

質実剛健(真面目でたくましい)

5殷鑑不遠(失敗の戒めは身近である)

6虚心坦懐(心が素直であること)

伊達編はこの3話から構成されています。

 

◆父親を忌み嫌っている伊達

警察学校組の中でも見た目通りリーダーシップを発揮している伊達。

ですが彼も松田同様警察官を目指した動機は父親の存在が大きいようです。

爪楊枝をくわえた生徒にあからさまさな不快感を示しています。

彼はなぜ父を嫌うのか。

伊達は父親も警察官。父親は爪楊枝を加えることで強く見せようとする程痩せた外見でしたが伊達少年は父を尊敬していました。

ですがある日2人で訪れたコンビニで強盗が暴れる事件が起こります。

伊達少年は警察官の父親の力を信じたものの伊達少年の意に反し父は強盗に土下座で懇願した上父はその時に負ったケガが元で警察官を辞める事になってしまいました。

犯人は後日別の店でも傷害事件を起こしたことから父親が犯人を捕まえられるほど強ければ正義は遂行された肉体の強さこそ正義に不可欠な要素と考えるようになりそれを持たなかった父に対し尊敬の念が消えてしまったのです。


◆コンビニ強盗を「数」で制圧!◆

コンビニに出掛けた伊達と降谷ですがそこで銃を持った強盗が押し入り2人をはじめ店内にいた客を人質に取り縛り上げます。

相手は数も多く武器も所持。さすがに2人だけでは勝ち目はありません。

なんとか身動きが取れるようになった降谷はモールス信号で外部に助けを求めます。

それに気づいたのが通りがかったヒロ、松田、萩原の3名。

彼らがとった作戦は映画の撮影と勘違いをしたふりをしながら堂々と店内に入り込み犯人たちの警戒心を解くというもの。

すると3人の周辺にいた人々も映画の撮影に参加したいと大はしゃぎ。みんなで店内に乱入します。

この人々は実は3人が集めてきた警察学校の学生で犯人はあっという間に制圧されてしまいました。

参加者の女性の多さや萩原の表情を見る限り彼を軸に作戦が練られた印象を受けますね。


◆明かされた「父の土下座」の真相◆

終盤で伊達は萩原の口から「実はかつて伊達の父親が土下座する様子を見ていた」と明かされます。

伊達は父親が弱さ故に土下座という手段しか用いらなかったと失望していましたが実は伊達は気付いていなかったもののあの時現場には犯人の仲間が大勢いたのです。それを察知した伊達の父親は警察の仲間に連絡をし、土下座という選択をすることになりました。ここで闘っても多勢に無勢、乱闘になれば被害は大きくなるばかりです。

伊達の父親なりの強さ、それが土下座であったということ。萩原は「誰も傷つけたくないという警察官の心が土下座という勇気ある行動を生み出した」と伝えます。


◆「見た目で決めつけるな」という発言の矛盾◆

降谷は他の学生から「金髪のハーフなんだから英語はペラペラだろ?」と話しかけられます。

これに対し伊達が「人を見た目で決めつけるな!!」と自分の事のように怒り出します。

伊達は当時からナタリーと交際していたので彼女を思っての発言です。

ですがこれは実はもっと奥の深い発言だと思います。

伊達の父は痩せ型で警察官としては頼りない印象を与えてしまう人物だったはず。

そんな父を伊達は尊敬することができなかった。5話の扉絵で筋力強化のトレーニングをしていたのは「自身の理想とする正義を遂行するための強さ」を手に入れたいと同時に貧弱な印象を与えかねない「父のような体型にはなりたくない」という気持ちの表われに思えます。

痩せた体の持ち主は弱者という考えが伊達の中に存在し実は彼自身が人を見た目で決めつけていたということを表した発言なのかなと感じました。


◆父との確執を乗り越えた伊達◆

真実を知った伊達は父親に連絡を入れます。口元には彼が父のトレードマークだからという理由で嫌っていた爪楊枝が描かれています。4話では父親の存在を無視していた伊達ですが父のトレードマークが自身のトレードマークとなる綺麗な終わり方ですね。

この時点で他のメンバーからの呼び名は「班長」ですがこの距離はあっという間に埋められそうですね。5人一緒に食事をとるほど仲は良好ですから。


◆伊達が降谷に残したものは何か◆

警察学校編は現在の降谷零(安室透)に同期のメンバーが何を残したか、降谷は誰からどのピースを集め、どのようにして現在の降谷零(安室透)の礎が出来上がったのかを描く作品かもしれません。

では伊達が降谷に残したものがあるとすればそれは何だったのか。

降谷は松田と対等に闘えるレベルのボクシングの技術がありました。またハーフであることをあれこれ言われても軽く流しています。つまり降谷は肉体及び精神の強さは警察学校入校時点で既に手に入れている。

教官から「真面目過ぎる」とまで言わせるほどですから正義感も相当なもののはず。

肉体の強さでも精神の強さでも正義感でもない。

となると伊達が降谷に残したものは「仲間との連携の大切さ」ではないかなと思います。

伊達自身は萩原から父の土下座の真相と父の精神の強さを伝えられていますがこの時降谷はこの会話のシーンには登場していません。降谷が描かれたのは犯人を制圧する為に「力でなく数」で闘ったというコマ。

伊達自身も父が仲間の警察官の力に頼ったことを聞かされています。

このことから伊達が降谷に残したものは「仲間との連携」と考える事はできそうです。


◆その他◆

松田は殺人事件の誤認逮捕により悪質ないやがらせに遭っていた過去が描かれました。たった1コマですが非常にショッキングなものです。松田が涙を流していない様子がかえって読み手の胸を締め付けます。

ヒロも両親の事件のトラウマを全く乗り越えることが出来ていません。

親が実際に罪を犯したとしても子供には何の罪もないのですがこのような経験に苦しむ子供は現実世界に数えきれないほど存在します。また大切な人の命を理不尽に奪われ葛藤する人たちも同様です。

降谷が外見の話題を軽く流したのは彼にとって容姿でからかわれることが日常だったから。伊達編はちょっとした描写に社会問題が凝縮されていて切なくなりました。

萩原は警察学校組で唯一暗い過去が見えてこない人物ですが物語の流れを見る限り彼にも何か胸に秘めたものがありそうですね。

警察学校組は警察官を志望した動機が「親」にある流れが出来ています。

萩原も親の存在が職業の選択に大きく影響したのかもしれません。

彼は洞察力とコミュニケーション能力が抜きんでていますがこの辺りは現在の安室透に通じるものがあります。

また警察学校編では彼の嘘により騒動を解決に導く様子が描かれましたが(松田編)これは安室を主人公とした『ゼロの日常』4巻で安室の取った行動と重ねることが出来ます。

萩原は現在の降谷零(安室透)に最も影響を与えた人物の可能性もあります。

警察学校組で最も早くこの世を去った彼の内面が明らかにされるのが今から楽しみですね。

松田編はこちら


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