警察学校編第3話を考察

第3話はまさに少年漫画の王道

 

『警察学校編』、3週に渡る松田編もいよいよラスト。

第2話最後に命綱が首に巻き付きついたまま宙吊りとなってしまった鬼塚教官。

5人は教官を救うためには拳銃で命綱を絶ち切るしかないと決断。

それぞれが即座に行動に移ります。

そんな中で降谷は1人。動きません。

2話で射撃の腕が群を抜いていると判明しているので撃つのは降谷であると本人も4人も言葉にせずとも理解している。

そう思って読み返すと棒立ちの降谷は大変サマになっています。

5人は見事な連携プレーで教官を救出することに成功。

最後には松田が警察官を目指す動機を降谷に打ち明け2人が今後打ち解けあう布石が打たれました。

この展開は少年漫画の王道そのものですね。


警察官を嫌悪する松田が警察官になる理由とは

 

松田が警察官を目指した理由は父親を誤認逮捕した警察への恨みを晴らすべく警視庁のトップ、警視総監をブン殴りたいからというもの。

なんとも単純明快な回答でいかにも松田らしいといった感じ(笑)

しかしこれは建前でやはり警察という組織を内側から変えていきたいという気持ちからでしょう。

「間違えて親父の夢をぶっ潰したのにシレっとしてる警察が…どうにも許せねぇんだよ…」

松田の父親は誤認逮捕により夢を絶たれ酒浸りの生活を過ごしていました。

松田と同じく彼の父親も当然警察への恨みがあったはず。

自分の息子が警察官を志すと聞いた時の父親の心境も気になるところですね。

 

その松田もこの物語からわずか4年後の26歳の若さでこの世を去ることになります。

父親は彼の仕事や人々を守る為に自らの命を犠牲にした息子をどのように捉えているのでしょうか。

松田が迎えた結末はあまりに酷なものでした。

父親が存命かは不明ですがそれでもきっと息子の最期を誇らしく思っているのではないでしょうか。


松田と萩原の強い絆

 

「今、萩原が見つけて来るであろう…弾丸を込めて…」

第2話で弾丸はいくら探しても出てきませんでした。

松田のこの発言は萩原の秀でた洞察力などを駆使すれば弾丸紛失騒動は簡単に片付くという事を知っているということ。

松田の萩原に対する絶対的な信頼を感じます。

この台詞を語っている時の表情も完全に萩原を信頼している。

 

それでも2話で教官のいいつけを守り立ったままでいたのは萩原の力を借りて自分の身の潔白を証明するよりも教官たちを困らせたいという気持ちが強かったのでしょう。

弾丸が見つからないとなるとこの教官たちの立場がなくなるわけですからね。

松田としてはその展開の方が自分好みだと感じたのかもしれません。

 

萩原は松田公認で非常に巧みな嘘がつけるキャラクター。

 

彼は降谷が架空の人物を演じる上で参考にしている可能性を綴りましたがこの考察は当たっているかもしれません。

萩原の人を騙すことに秀でた能力と降谷に関しての考察はまた別に記事にしたいと思います。


降谷が警察官になる目的はエレーナを見つける為

 

「ある人を見つける為さ…急に姿を消してしまった…とても大切な女性をね…」

降谷が警察官を目指す理由はエレーナを探すことでした。

 

つまりこの時点ではエレーナの死を知らないという事になります。

深読みする必要は無いのですが気になっている点を一応記載するとなぜ彼はエレーナの死を知らないのかということ。

 

宮野夫妻の死は現時点では事故として処理されています。

事件性が無いと判断されている場合、警察学校のデータベースにエレーナの事故は記録されていない可能性もあります。

この場合は2話の景のように彼女について調べる事はできません。

 

しかし降谷が例え金銭的に恵まれない時代を過ごしていたにしてもインターネットに触れることぐらいはできたはずです。

コナンの世界において時代背景を語るのはあまり適切ではありませんが2話でPCで調べ物をしていることから降谷が22歳の時点で世の中にインターネット文化はあったと考える方が自然。

一般的なPCからでもアクセスすれば断片的であってもエレーナに関する情報は出てきそうなものです。

深読みする必要性は無いとは思いますがちょっと疑問に感じました。


降谷はエレーナの失踪に事件性を感じているのか

 

宮野夫妻の死は読者側としてはどうしても事件性を疑いますが現時点ではあくまで事故死。

そしてエレーナについて語る降谷の表情も背後に描かれたエレーナの表情も不穏な気配はゼロ。

 

降谷は彼女の生存を信じ、心から会いたいと願っているようにしか見えません。

 

簡単なサヨナラの言葉を残し、エレーナが降谷の前から忽然と姿を消したのは事実でしょうが表情だけを見る限りエレーナの失踪に事件性を感じている様子は無い印象を受けました。

 

エレーナと事件に何らかの繋がりを感じるのであれば彼女の死の原因である火事についても把握していないと不自然に感じます。

火事を知っているという事はそのままエレーナの死を知っていると考えるのが妥当。

エレーナの死を知らない時点で降谷はまだ彼女が危険な世界と繋がっていたことに気付けていないような気がしました。

「僕は絶対に警察官にならなきゃいけないんだ…」 第1話より

その一方でこの台詞はただの人探しという印象は受けません。

警察学校入校時点で彼女の失踪に不信感を抱いていたと取ることもできなくはありません。

しかし青山作品は一途な思いがテーマとして描かれることが大変多いことで有名です。

大切な人を見つけたいという純粋な願いが彼を警察官という世界に導いた可能性も十分あり得ます。


降谷にとってエレーナは母にして唯一の家族

 

エレーナは降谷零の初恋の女性です。

 

幼い頃に離れ離れとなったエレーナを今でも大切に思う降谷の姿は初恋の相手を一途に想う青山作品の王道パターンのように見えて実はそうではありません。

 

そもそも青山先生がなぜ初恋をテーマとしたものを好むかというと大前提にラブコメが描きたいからというのがあります。

 

ですが降谷零とエレーナのラブコメを描くことは絶対にできません。

彼女は既に亡くなっていることが明言されているキャラクターですし、彼が想いを寄せていた時点で既に家庭がありました。

絶対に叶わない恋であり、青山作品の特徴であるラブコメが発動する条件が全く整っていないのです。

 

降谷がエレーナを大切に思うのは初恋の女性を愛しく思うという感情以上に母親を思う感情に近いはずです。

 

彼には実の母親の存在が全く見えてきません。

『ゼロの日常』3巻で彼に自転車を教えてあげたのはエレーナでした。

自転車に乗れるようになった降谷少年にパチパチと手を叩くエレーナが確認できます。

 

恐らく彼に「よくがんばったね」「すごいね」など優しい言葉をかけてあげたはず。

これは本来親の役割。

「あの子は特別!私と同じハーフだから…」 95巻

この理由だけで自転車のレッスンまでしてあげるはずがありません。

降谷少年の不遇な環境も知った上で母親の役割を少しでも果たしてあげたいというエレーナの大きな優しさが伝わってきます。

 

降谷零にとってエレーナは甘酸っぱい初恋の想い出という可愛らしいものというよりも母親であり同時に唯一の家族という捉え方の方が適切だと思います。

 

降谷零にとってエレーナは唯一無二の存在なのは間違いありません。


降谷零(安室透)は赤井秀一と対

 

エレーナは降谷の初恋の女性であると同時にそれ以上に母親という側面が強い。

これは降谷の宿敵である赤井秀一と対にしたいという作者側の考えもあるのかなと思います。

 

赤井は表向きは死んだことになり、恋人の明美も失った。

母親も幼児化されるとなどつらい経験をしています。

 

それでも赤井には恐らく偉大であろう父親がいました。

MI6であり頭脳も身体能力も優れた母親がいます。

メディアに天才と大々的に報じられる賢い弟がいます。

高校生でありながら探偵として活動する妹がいます。

 

赤井は家族に大変恵まれたキャラクターです。

しかし降谷はそうではありません。

 

降谷零には家族はエレーナしかいなかったのです。

今までも降谷と赤井は対のキャラクターとして描かれてきましたが家族に関してもそうする狙いがあるのだと思います。

 

赤井は生死不明の父親を追っています。

降谷はこの段階で行方の分からないエレーナの存在を追っています。

降谷の中でエレーナ=母親のような存在となると父を追う赤井と対になるのでここにもっていきたいのではないかと。


今後歩むことになる降谷の壮絶な人生

 

22歳の時点でエレーナの死を知らなかったというのは少し衝撃でした。

彼は22歳から現在の29歳までの間に大切な友人を4人も失うというつらい過去を背負って生きていますがこのメンバーに加えてエレーナの死とも向かい合っていたことになります。

つまり22歳の降谷は悲劇のスタートラインにさえ立っていないということ。

 

降谷には景こそいましたが家庭環境も恵まれていなかったと考えられますし同年代の子供とも衝突の絶えない幼少期を過ごしたはず。

本来大いに語るべきその気の毒な幼少期が霞んでしまうほどの苦悩をこの数年で経験していることになります。

降谷はあまりに悲劇的なことの連続で非常に不憫なキャラクターと言えます。

 

社会現象になった人気キャラだといって容赦しない、描くべき設定はちゃんと描くという青山先生の作品作りのこだわりを感じたのは私だけでしょうか(笑)。

青山先生は読者の意見に耳を傾けることも大切にしてると語っているので決して読者を蔑ろにはしていません。

それでも安室の人気が絶頂の最中、同僚の榎本梓と夢落ちとは言えラブコメのようなものを描いた先生だけはあるなと勝手に納得しました。

↑『ゼロの日常』2巻収録の夢落ちも細かく観察すると安室の夢というのが分かります。

 

人気があるキャラクターだからと言って読者へ妙な媚の売り方をせず、必要な要素を描くことにおいては一切妥協しない先生なんだと痛感させられました。

 

『警察学校編』では1話で景の壮絶な過去が明かされました。

これには作品を楽しみにしていた読者の一部から「つらい」「楽しい話が読みたかったのに」という声もちらほら見受けられました。

それでも必要であれば必ず描く。

『警察学校編』も『ゼロの日常』の夢落ち回も先生が降谷零(安室透)を描く上で不可欠な話だと判断している。

結果的に降谷零は作中きっての孤独キャラという位置づけとなりました。

 

彼は『ゼロの日常』を読む限り米花町での日々を穏やかに過ごしていますが作中何度か悪者を退治しています。

それでも公安警察という立場上自分の手柄にはできません。

彼の活躍は全て「暗躍」なのです。

 

しかしこれこそが彼の魅力であり社会現象にまでなった魅力。

気の毒ですが彼は悲劇的な過去を抱えている様子があまりにも似合うキャラクターなんです。

この点を青山先生はファンに流されることなく伏線も交えきちんと描く。

『警察学校編』『ゼロの日常』は共にスピンオフといっても非常に奥が深い。

作者の強烈なこだわりが凝縮されているのが伝わってきます。

 

 

彼は一体いつ、何をきっかけにエレーナの死を知ったのでしょうか。

警察官を目指した理由となった人物が既にこの世にいないと知った時ほんの僅かでも警察官の道を諦めるという選択肢が彼の脳裏をよぎったのか。

それともその死に不信感を抱き、これまで以上に警察官という職業にこだわりを持つことになったのか。

 

まだ3話しか描かれていない『警察学校編』ですが情報量が多いですね。

とても読み応えのある作品です。

 

第1話試し読みはこちら

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