「思い出の料理」は安室が周囲と距離を縮めた最初の話
『ゼロの日常』41話「思い出の料理」。
安室と梓が常連客の女性の思い出の味、赤いケーキの再現を試みる話です。
劇場版「緋色の弾丸」の公開を間近に控えスピンオフでも赤井家の宣伝活動ですね(笑)。
今週のNext Zero’s Teatimeをお届けします!
— 名探偵コナン ゼロの日常【公式】 (@zerotea_file) 2020年3月22日
『ゼロの日常』待望の最新話が掲載されている、「少年サンデー」17号は今週水曜日発売です!
今話は、、、「赤い」ケーキ回です!
是非お楽しみください!
青山先生の直筆修正画はこちらです!
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安室は赤井との因縁から嫌いな色は赤。自分の嫌いな色のケーキを作らなければならないというギャグ回かと思いきやよく見ると赤いケーキを通して安室が周囲と距離を深めた最初の話の可能性が見えてきました。
安室透の心境の変化が丁寧に描写された大変貴重な回と言えます。
今回は赤いケーキを通して描かれた潜入捜査官、安室透の心境の変化について考察します。
- ◆「思い出の料理」のあらすじ◆
- ◆「思い出の料理」はある程度前のエピソード◆
- ◆梓の影に隠れる安室◆
- ◆鶴山さんの中で存在の薄い安室◆
- ◆安室が陰から一歩踏み出したエピソード◆
- ◆安室は警察学校組を偲ぶ事が出来ている◆
- ◆赤いケーキを通して赤井との共闘を示唆?◆
- ◆まとめ◆
◆「思い出の料理」のあらすじ◆
ポアロの常連客のおばあちゃん、鶴山さんは何十年も前に食べたという真っ赤なケーキの味が忘れられないとのこと。
それがレッドベルベットケーキという名前と分かり新メニューの開発も兼ねて安室と梓はレシピを調べて作ってみます。
ですが鶴山さんの思い出の味の再現とはいきませんでした。
そこで安室は梓に協力を仰ぎ赤いケーキ作りに再チャレンジ。
見事鶴山さんの理想通りのケーキの再現に成功。
そして安室は「思い出の料理」という言葉に自分の警察学校時代の思い出を重ねるのでした…。
◆「思い出の料理」はある程度前のエピソード◆
今回のエピソードは安室、梓、鶴山さんの3人が仲良く交流している微笑ましい話と受け取った読者の方が多いかもしれません。
ですがよく見ると安室は梓と鶴山さんに対し距離を置いているのが分かります。
基本の情報ですが『ゼロの日常』は回を重ねるごとに最新の話になっているとは言えません。
例えば3巻から4巻にかけての「パン教室」「サバイバル教室」の2話は同日のもので東尾マリアちゃんの台詞からこの日は「マリアちゃんを探せ! 本編95巻」のすぐ後だと分かります。
ですがその後に描かれた「頼んだぞ」は本編94巻とリンクしていることが分かります。
これら以外の情報からも『ゼロの日常』は話が前後しながら描かれていることは明確です。
『ゼロの日常』では安室が梓や鶴山さんと距離を詰めて交流している様子が何度か見られました。
ですが後述の通り今回のエピソードにはその交流が感じ取れないのです。
つまり「思い出の料理」はある程度前の出来事を描いた話ということになります。
◆梓の影に隠れる安室◆
梓「今、鶴山のおばあちゃまから思い出の味を教えていただいて」
梓と鶴山さんは思い出の赤いケーキの話題で盛り上がっていましたが安室は2人の目の前にいるにも関わらず会話に参加していません。
また彼の料理の腕は群を抜いているはずですがケーキ作りの際梓のアシスタントのような役回りとなっています。
特にケーキ完成のコマは梓が1人で作ったかのような印象さえ受けます。安室はというと彼女の背後でパチパチと拍手をしているだけ。完全に彼女に手柄を譲っている状態です。
この様に黒子に徹する安室は『ゼロの日常』の初期に見られたものです。
その一方で彼は赤いケーキという言葉に不機嫌な表情を浮かべている。これは完全に陰に徹し、自分の本音をひた隠しにしてきた第1話の頃より3人の仲はかなり温かなものになっていることを意味しています。
ですが彼が自分の能力を隠すことに重きを置いているのは間違いありません。
安室と梓の距離感を考察する上で非常に分かりやすい資料が4巻の「Ready Go!!」。
彼はトレーニングをしたいが為に行列のできるレストランの順番待ちを梓にさせています。
つまりこの時安室は自分の目的の為に梓の時間の自由を奪っており、梓もこの事を当たり前のように受け入れています。
梓は安室が自由な行動を取る様子を何度も見てきているからです。そして安室も梓なら許してくれることを分かっている。
安室と梓の距離が近いことが分かるエピソードです。
●「Ready Go!!」➡安室は自分の目的の為だけに梓の自由を奪っているが梓は受け入れている
●「思い出の料理」➡安室は鶴山さんの為に梓に協力を仰いだが梓から不思議がられている
この2点の差からも「思い出の料理」は2人の距離がまだ遠い頃と言えます。
そして「思い出の料理」で安室が梓に赤いケーキの再現の協力を要請した際梓は無言で無表情。
これは安室が梓に力になってほしいと頼んだ最初の日だから。梓は安室が自分に頼みごとをするような人物だとは思っていなかったのでしょう。
そして2人の距離感をよく表しているもう1つのエピソードが同じく4巻収録の「構わんよ」。
梓は安室にウンチクを披露。安室はその内容に感心し、梓は「安室さんでも知らないことあるんですね!」と返している。ここから梓は安室がウンチクを披露するのが好きな人物だと認識しているのが分かります。
事実安室は非常におしゃべりで知識を語るのが好きなキャラクターです。
ですが『ゼロの日常』の初期で彼は潜入捜査官として目立つことを避けていた為本来のおしゃべりな性格を隠していました。
それが一転「構わんよ」ではその本質にとても正直になっている様子が伝わります。
またこの回では安室は梓の前を歩いています。初期は梓の後ろが彼のポジションでした。
話すことが大好きで人をリードする立場でいたい。「構わんよ」は安室の素がかなり表れている話と言えます。
その点「思い出の料理」では梓の影に隠れるかのような働きぶりですし得意の知識の披露も半分は梓に任せている。
これは本来の彼の姿ではありません。
「思い出の料理」は「Ready Go!!」や「構わんよ」よりそれなりに前の話と推測できます。
安室と梓があまり打ち解けていない頃でしょう。
◆鶴山さんの中で存在の薄い安室◆
梓の項目で記載した通り鶴山さんは思い出のケーキの話題を梓にしか振っていません。
安室と鶴山さんの距離感を語る上で外せないのが3巻収録の「ニッカポッカ」です。
鶴山さんの自宅を訪れた安室が鶴山さんをはじめ彼女の複数の友人に振り込め詐欺の対処法を伝授し、密かに雨漏りしていた屋根の応急処置も施した話です。
この回で特に注目すべきは振り込め詐欺の対処法について語る安室、それを聞く鶴山さん、そして安室と初対面となる彼女の友人達のそれぞれの表情です。
この時安室は犯罪の被害者を出したくないという警察官としての本音から肩書は喫茶店員にも関わらず一方的に詐欺の対策を語ります。しかもペラペラという擬音付き。
その様子は安室と初めて会う鶴山さんの友人達には不思議な人にしか映らずその為彼女たちはポカンとした表情になっています。
対照的に鶴山さんは笑顔で彼の話に耳を傾けている。
これは彼女が「彼はウンチクを語るのが大好きなおしゃべりな人物」という安室透(降谷零)の本質を理解しているからこそ。
鶴山さんの安室の人格に対する理解と同時に彼への信頼がしっかりと伝わってきます。
1話で椅子の不具合を改善したのは梓に違いないと思っていた頃の彼女の姿は「ニッカポッカ」にはありません。
ですがこの「思い出の料理」では彼女の中の安室は存在が大きいとは言えないのです。
だから思い出のケーキについて安室を交えて語らなかった。さらに彼女は2度ケーキを口にしますがケーキを口にした後のそれぞれの第一声が以下の通り。
1度目「素晴らしいわ梓ちゃん、すごくおいしい!」
2度目「梓ちゃん……このケーキ…」
梓に向けての言葉だけです。彼女は安室もケーキ作りに参加していたのを見ていたのに。
またこの回で彼女は梓の方ばかり見ています。
鶴山さんから見て安室は長い付き合いのある梓にできた後輩程度の認識なのではないでしょうか。これらは「ニッカポッカ」では決して見られなかったものです。よって「思い出の料理」は安室が鶴山さんの信頼を勝ち得る前、つまり「ニッカポッカ」よりも前の話ということになります。
◆安室が陰から一歩踏み出したエピソード◆
潜入捜査官としての安室透はいつだって影の存在でした。
手柄が全て梓のものになろうが鶴山さんの中で存在が薄かろうがそれで構わなかった。
なぜなら彼は公安警察であり暗躍を余儀なくされている立場。
ニックネームと同じくゼロであることを選んできた人物です。
ですがその安室に赤いケーキ作りを通して変化が起きます。
彼が陰から日の当たる世界に一歩足を踏み出したのです。
安室は頼まれたわけでもないのに鶴山さんに喜んでほしいという純粋な思いやりから自発的にケーキ作りに再チャレンジします。そしてその目的の為に閉店後の梓に協力してほしいと頼んでいる。
彼は今まで問題を1人で解決してきました。その彼が目的達成の為にいわば他人を巻き込む道を選んだわけです。
さらに終盤ではケーキが赤くなる仕組みを安室が梓と一緒に語っているのが確認できます。
途中、梓が安室の名前を呼び鶴山さんへの説明を彼にさせる流れを作っている。
梓は安室がウンチクを語ることが好きだという事に気が付いている様子です。
もしかすると赤いケーキの再現を試みる過程で安室はおしゃべりで豊富な知識について語るのが好きという素の一面を梓に見せたのかもしれません。
◆安室は警察学校組を偲ぶ事が出来ている◆
最後のページで安室は梓から思い出の料理はあるのかと訊かれこう答えます。
「えぇ、たくさんありますよ…」「それこそこのビターなチョコレートケーキのように…」「ちょっと、ホロ苦いですが…」
そう語る彼が回想するのは亡き警察学校時代の友人達との思い出です。
この時安室は亡き友人達を懐古しています。表情には曇りが見られません。
思い出されるのは1巻「眠れないんですか?」。
亡き友人達が夢に出てきて眠りの浅さに悩まされていた頃(78巻)と違い彼らの死を受け止めることが出来ている印象を受けました。
彼の思い出について語る安室を見る梓のやや驚いたような表情も注目すべき点です。
安室は自分の過去について当たり障りのない話しかしてこなかったはず。その安室が自分の事を僅かであっても自ら本音で語ったことに梓は驚いたのです。
知識を語ることが好きというのを隠さないことや自身の過去について語るといった事はこれまでの安室には見られなかった事。
この「思い出の料理」は安室透が素を見せ始めるようになった最初のエピソードである可能性があるのです。
◆赤いケーキを通して赤井との共闘を示唆?◆
「思い出の料理」は安室透が降谷零としての素顔を覗かせた最初の話。
この考察が正しければ彼は赤いケーキを通して自分と周囲の距離を縮めたことになります。
やや深読みになるかもしれませんが安室が赤いケーキを通して周囲と交流を深めるようになったのであれば赤繋がりで因縁の相手である赤井秀一ともいずれ距離を詰める、つまり対組織戦で共闘するという意味合いも含まれているではないかと思います。
2人の関係は工藤邸でのお茶会で既にある程度のレベルまで関係が改善しているとは思いますがスピンオフでも安室と赤井の距離が縮まる未来を見据えて描かれた可能性はありそうです。
◆まとめ◆
- 41話「思い出の料理」は安室透が素顔を見せた最初の話かもしれない
- 「思い出の料理」は「眠れないんですか?」よりも後、「ニッカポッカ」、「Ready Go!!」、「構わんよ」よりも前の話
- 警察学校時代の友人達の死を受け止め懐古することが出来ている
- 赤いケーキで周囲との距離を縮めたことから赤井秀一とも共闘することを示唆している可能性がある