実は不可思議なスコッチの自決
安室と赤井に決定的な亀裂を生じさせたスコッチの死。
実は彼の自決は非常に謎めいていると言えます。
幼なじみで同じく警察官となったヒロを失った安室の悲しみは余りに大きく、それ故に赤井に対する憎悪は相当なものとなりました。
赤井「俺に対する奴の恨みは…思った以上に根深いようだ…」 85巻
安室「殺したい程憎んでる男が…左利き(レフティ)なだけですか
ら…」 90巻
しかし今後安室は赤井と完全な和解とまでいかなくとも組織の壊滅の為にはある程度距離を詰めなければなりません。
ここではその鍵となる存在、スコッチの死について検証してみたいと思います。
◆スコッチ自決の複数の謎◆
◆スコッチの自決とは
スコッチの死の真相が明らかになったのは90巻「裏切りのステージ」です。
スコッチ(悪い降谷…奴らに俺が公安だとバレた…逃げ場はもう…あの世しかないようだ…じゃあな零(ゼロ)…)
これがスコッチから安室への最期の言葉です。
この言葉がメールなのか通話なのかそれとも手紙なのか明らかにされていません。
安室は階段を必死に駆け上がりスコッチのいる屋上へ向かいますがそこには既に息絶えている幼馴染と拳銃を手にした赤井の姿がありました。
【安室が赤井を憎んでいる理由】
赤井はスコッチが公安からのスパイだと分かったから撃ち殺したと説明しその場を後にします。
安室は現場の状況からスコッチが自決したことはすぐに気付いたものの使用されたのが赤井の拳銃であったために赤井が自分の拳銃を渡し幼馴染を自決に追いやったと勘違いしてしまいました。これが2人の間に大きな確執を生むことになります。
【スコッチ自決に対する赤井の自責の念】
スコッチは赤井の拳銃を奪い、スマホごと自分の心臓を打ち抜きました。
最終的に彼が引き金を引くきっかけとなったのは幼馴染である安室の足音です。赤井がスコッチを自分が殺したことにしたのは組織内で昇り詰める為とも言えますが赤井は安室とスコッチの仲の良さはある程度は把握していたはず。
赤井「それと…彼の事は今でも悪かったと思っている…」 85巻
これはスコッチに自決する隙を与えてしまった事に対する罪悪感からくる言葉だと思います。
赤井なりの思いやりが安室には伝わっていないのは残念ではありますがだからこそ2人のキャラクターのそれぞれの魅力が活きてくるのでしょう。
◆当初スコッチはスマホを破損する気は無かった?
スコッチがスマホごと自分の心臓を銃弾で貫いたことを赤井は家族や仲間のデータを消去する為と考えています。
真偽は不明ですがスコッチがスマホを壊したかったのは描写から事実と言えそうです。
またベルモットのこんな言葉があります。
「ホラ、公安から潜り込んでて名前を聞く前に殺された…」 85巻
スマホを壊したために組織はスコッチの名前まで掴めなかったと考えられます。つまり親友の安室の情報の流出を食い止めている。彼の最期の行動は大変意味のあるものでした。
しかしその一方で大きな謎が残ります。
スコッチはスマホを破壊する気でいたのならなぜ拳銃を所持していなかったのでしょうか。
彼が安室へ遺した言葉を素直に受け止めると彼は命を絶つ覚悟でいたことになります。
そして彼の最期は屋上でした。拳銃を持たない彼は屋上から飛び降りるつもりだったのでしょうか。
スコッチが飛び降り自殺したとなればその原因を組織は探るはずですし彼と行動を共にしていた安室に疑いの目が向けられるのは当然と言えます。スコッチが志を同じくした大切な幼馴染をそのような危険にさらすとは思えません。
また屋上からスマホを投げ捨てて破損させるなんてことをするわけがありません。
もっと確実でかつ証拠の残らないスマホの処分方法はいくらでもあるはずです。
そんなことに気が回らない程混乱状態だったという理由が作品上通るとは思えません。
当初スコッチにはスマホを破損する気は無かったと考える方が自然だと思います。
そこから一転スマホを破壊すると決めたのは何故なのか疑問が残ります。
◆赤井が二度使用した「諦めろ」の真意とは
屋上で赤井はスコッチに対し二度「諦めろ」と言っています。
「自殺は諦めろ」というのが一回。これはそのまま「自殺は思い止まれ」という意味です。
赤井はその前にも一度「諦めろ」と声をかけています。
これを「自殺を諦めろ」と同じだと勘違いしている読者の方が多いのではないでしょうか。
よく見ると2つの「諦めろ」は意味が異なります。
まず「自殺は諦めろ」と語りかけた時の赤井は利き手である左手でリボルバーのシリンダーを掴んでいます。
彼に自決をさせない為です。
そしてスコッチが逃げ出さないよう反対の右手を壁に当てています。
しかしその前の「諦めろスコッチ…」と声をかけた際赤井は利き手の左手を壁に当てているのが確認できます。
この時点ではスコッチは赤井の拳銃を奪っていないことが分かります。
このことから「諦めろ」は最低2回、異なるシチュエーションで使用されたことが分かります。
そして赤井の回想で「諦めろスコッチ」の前にこんな言葉がありました。
(無理だ…不可能だよ…)
この言葉が赤井とスコッチのどちらのものであるのかは明確に描写されていませんが流れからすると赤井の言葉と考えられます。
つまり赤井はスコッチに対し「無理だ…不可能だよ…諦めろスコッチ…」と声をかけた。
この「諦めろ」はスコッチから何かを聞かされた赤井がその考えに対し無理、不可能だと判断している。
また赤井はこの時点でスコッチに対し自分がFBIであることを明かしていません。
スコッチは赤井を組織のメンバーと認識した上で何かを語ったことになります。
赤井「俺を撃つ前に話を聞いてみる気はないか?」
この言葉もそれまでスコッチが一方的に話す側だったとも受け取れないでしょうか。
自殺を決意している人間が敵相手に色々と語るなんて大変奇妙です。
赤井がFBIだと所属を明かしたのはスコッチが拳銃を自分の胸に突き立て自決の意志を行動で示した後です。
当初赤井はスコッチから自決の意志を感じ取れなかったのではないでしょうか。
赤井「俺に投げ飛ばされるフリをして俺の拳銃を抜き取るとは…」
スコッチは赤井に投げ飛ばされる言動をしたことが分かります。
銃を奪う為に仕掛けたものなのかは不明ですが屋上でのスコッチの自決は描かれていない真相がまだあると考えるべきです。
◆スコッチは屋上で発砲した?
安室がピンポイントで屋上に辿り着けた理由が現時点では判明していません。
しかし、ひとつ可能性として浮上するものがあります。
それがスコッチが屋上で発砲した銃声を頼りに場所を割り出したのではないかということです。
原作にはスコッチが発砲した描写は全くありません。
ですが私はスコッチが屋上で発砲した可能性はかなり高いのではないかと考えています。
彼は赤井に投げ飛ばされるフリをして赤井の拳銃を奪いました。
その直後とみられるコマでスコッチは赤井に銃口を向けています。そして彼は息が上がっている状態です。
息が上がっていたのは取っ組み合いの直後だからとも考えられます。ですがスコッチは次のコマで片目を閉じて赤井に銃口を向けている様子が確認できます。
これはスコッチが赤井に狙いを定めている(定めていた)描写と受け取れないでしょうか。
さらに赤井が両手を挙げて敵意が無いことをアピールしています。
赤井はかつて一度に複数の人物から銃口を向けられたことがありましたがその時でさえ余裕たっぷりでした。(85巻)
しかしスコッチ1人を相手にしているこの屋上ではその余裕が見られません。
の状況からスコッチは赤井の拳銃を奪った後赤井に対し威嚇射撃をした可能性が考えられます。
また安室が屋上に辿り着けたのも「銃声が聞こえたから」という理由で解決ができます。
推測通りスコッチが威嚇射撃をした場合その理由が判然としません。
可能性として高いのは自決する為に赤井を近寄らせたくなかったということでしょうか。ですが結果的に銃を奪った直後に自決ができない状態に追いやられています。
この直前に赤井に投げ飛ばされたことを踏まえると両者は本格的に揉めていたのかもしれません。
赤井への威嚇射撃はスコッチの感情が昂っていた為という可能性も捨てきれません。
ですが死を決意している人間がなぜ感情の昂るような状態に陥っているのかも謎です。
◆なぜ安室の足音で自決したのか
スコッチは幼馴染である安室の足音を追手のものだと勘違いして自決してしまったというのが読者の間で定説となっています。
しかしそれも奇妙な話なんです。
そもそもスコッチが安室の足音を追手のものだと思い込んで自決した場合、彼は組織の人間が自分の元へ来ればすぐに自決する気でいたということになります。
しかし彼はFBIと明かす前の赤井、組織のメンバーであるライと何か話し込んでいるのです。
つまりスコッチの中には組織に見つかる=自決という図式は無かったと考えられます。
その彼がなぜ足音で自決したのか理由が分かりません。
仮に安室を追手と思い込んだとしても足音から相手が1人であることは判断できたはずです。
スコッチにはFBIという強い味方がいました。銃もありました。勝ち目のない戦いではなかったはずです。
そんな状況下で彼はなぜ引き金を引かなければならなかったのでしょうか。
◆自決したのは恐らく海外
私はスコッチが自決したのは日本ではないと考えています。
その理由は赤井の台詞です。
「聞いてないのか?そいつは日本の公安の犬だぞ…」 90巻
「ここは日本…そういう事はFBIより君らの方が畑だろ?」 85巻
まず前者、わざわざ「公安」に「日本」と付けるのはスコッチ自決の場所が日本ではないからだと思います。
そして後者の「ここは日本」は「あの時と違って」という意味とも考えられます。
つまりスコッチが自決したのは日本以外の可能性があります。
では彼らはどんな任務で海外にいたのか。この考察が当たっていた場合海外滞在に自決の原因が隠されているのかもしれません。
また『ゼロの日常』4巻で安室によく似たイタリア人が登場する話がありました。
安室はイタリア語で食堂をタベルナと言うことやナポリタンがナポリでは出されていないことを知っていることが描かれています。このイタリア人がホテルのフロントでイタリア語で話しかける為従業員が困惑していたのですが両者の間に余裕の表情で割って入る安室の姿があります。
安室がイタリアに精通していることの示唆かもしれません。
これは彼のルーツがイタリアにあるという伏線かもしれませんし物語には何の関連もない話の可能性も十分にありますが気になったので記載しておきます。
もしかするとスコッチ自決の場所はイタリアなのかもしれません。
【追記】
85巻の安室と赤井の会話で初めてスコッチの存在が示唆されましたがこの時安室が「クエッション」と発音しています。これをイギリス式の発音とする見方もありますし、物語がイギリス色が強まっていることを踏まえるとスコッチの自決はイギリスの可能性が高いというのが現在の考察です。(2020年3月13日)
◆スコッチに自決の意志は無かったのではないか
スコッチは上記の通りスマホを破壊する準備をしていなかった、FBIだと明かす前の赤井と話し込んでいるなど自殺を決意した人間とは考え難い不可解な言動を取っています。
少なくとも自決に赤井の拳銃を使用した時点で彼の自決は計画的とは言えないのは確かです。
ここで現在までに判明しているスコッチの自決までの流れをおさらいしましょう。
1・屋上でスコッチはFBIと明かす前の赤井(つまり組織のメンバーのライ)と何かしら話をした
2・スコッチの話に赤井は「無理。不可能。諦めろ」と諭した
3・赤井がスコッチを投げ飛ばす
4・スコッチは投げ飛ばされるフリをし赤井の拳銃を奪う
5・スコッチは奪った拳銃でスマホごと打ち抜こうとするが赤井は「自殺は諦めろ」と諭した
6・赤井はFBIであることを伝えた
7・安室の足音を聞いたスコッチが隙をついてスマホごと自分の心臓を打ち抜き自決
8・安室がスコッチの遺体に駆け寄るも赤井は自分が殺したことにし立ち去る
スコッチが今まさに死に逝こうとしているのなら赤井も早々に自分がFBIであることを伝え、彼の保護に尽力するはず。それをせず赤井はスコッチに何かを「諦めろ」と伝えています。
スコッチ「け…拳銃は…お前を撃つために抜いたんじゃない…」
赤井の拳銃を奪い取った直後の言葉です。
これは真実だと思います。
彼はこの言葉の直前に赤井に対して発砲したとは思いますがそれはあくまで威嚇射撃。
そして注目してほしいのはこの吹き出しがとても波打っている、つまりスコッチが震えながら発した言葉であるということです。
最初から死を決意していた人間の言葉とすると釈然としません。
それこそ赤井の拳銃を奪うことに成功するまでは自ら命を絶つという考えは全くなかったと考えられなくもないのです。
次の言葉がこちら。
スコッチ「こうする…為だ!!」
自分の心臓に拳銃を突き刺しています。その後のスコッチと赤井の会話が以下の通り。
赤井「自殺は諦めろスコッチ…お前はここで死ぬべき男ではない…」
スコッチ「何!?」
赤井「俺はFBIから潜入している赤井秀一…」「お前1人逃がすぐらい造作もないのだから…」
スコッチ「あ、ああ…」
普通に考えれば「FBI」という単語に反応しそうなものですがスコッチが大きく反応したのは「死ぬべき男ではない」というところでした。
また「逃がすぐらい造作もない」という言葉に対する「あ、ああ…」は赤井に同調している表情に見えます。
私はこの時点でスコッチの自決の意志が揺らいでいるように感じました。
しかしその直後、安室の足音が聞こえてきてスコッチは引き金を引き息絶えることになります。
ライと話していることが顕著だと思いますがスコッチの自決までの一連の流れは自殺を決意した人間とは思えないものです。
◆スコッチのメッセージが安室に届いたのはいつなのか
スコッチの自決は計画的なものでないことは確かです。そうなると安室に送った自殺を示唆する言葉の真意が分からなくなります。
ここで原作を振り返りましょう。
安室はスコッチのいる屋上まで階段を駆け上ります。その最中スコッチの「じゃあな零」という最期の言葉が添えられています。
なんの疑いもなく読めばこの言葉を受けた安室がスコッチを助けるために屋上へ向かっていると考えられます。
ですがスコッチの自決は先述の通り計画的とは言えないものです。
そしてこの言葉がどんな形で安室に伝わったのか明らかにされていません。
踏み込んで語ればこの内容が安室に伝わったのがいつなのかも不明瞭です。
赤井との会話などから彼は当初自殺する気はなかったと考えることもできます。
では安室へ遺したあの言葉は何だったのか。
スコッチには自殺に見せかけて姿を消さなければならない何らかのアクシデントが生じた可能性も視野に入れていいのではないでしょうか。
つまり「自分の素性が知られてしまったから命を絶つ」はフェイクで実は彼はどこかで生き延びようとしていたなど。
しかし赤井との会話でそれが不可能だと言われてしまい本来フェイクであった自決という選択肢が浮上することになった。
ヒントになりそうなのは96巻。
兄の高明がスコッチの死を知った回でスコッチは兄に手紙を送っています。その手紙に自分なりのサインのようなものを添えていることから普段から彼は手紙やメモで相手にメッセージを送る人物だったと推測できます。
スコッチの最期の言葉は手紙やメモの可能性が十分に考えられます。
メールや通話と違い書き置きされた手紙やメモの場合安室はメッセージに気付くことが遅れてしまいます。
スコッチはその間に姿を消す算段だったのかもしれません。
安室が自殺を示唆するメッセージを受け取り屋上に駆け付けたように演出しているに過ぎず実際は安室がメッセージに気付いたのはスコッチの死後の可能性もあるのではないでしょうか。
私の考察ではスコッチは屋上で発砲しています。安室が駆け付けたのは自殺を示唆する内容の連絡を受けたからではなく銃声が聞こえたからだということも視野に入れています。
安室にとって屋上で幼馴染の遺体を見つけることは全くの想定外だったという考察も現時点では可能ではあります。
これらは憶測の域を出ませんがその可能性が完全否定できない程彼の死は謎が多いのです。
◆「お茶会」でスコッチの自決の詳細は明かされたのか
読者の間で「潔い」「名シーン」とされているスコッチの死に難癖を付けているように受け取られるかもしれませんが勿論そのような意図は全くありません。
しかしながら現時点では彼の死はあまりに不可解と言えます。
赤井が安室にスコッチの自決に関する詳細を伏せているのは「伝えない方がいい何か」があるのではないかと勘繰ってしまいます。
スコッチの行動が謎めているのは明確ですが、かと言って安室と赤井の対決の構図を美しく描くためにスコッチに不可解な行動を取らせたとはさすがに考えられません。
そして謎に包まれている彼の死に後ろ暗い真相(端的に言うとファンが悲しむような事実=実はスコッチは悪など)があるとも思えません。
スコッチは安室と赤井の間のわだかまりを和らげる存在でなくてはならない。彼は死後もなお必要不可欠なキャラクターなのです。その彼の死を無駄にすることはまず有り得ません。
安室と赤井の間にはスコッチの死で決定的な確執が生じましたが95巻ではその2人が顔を合わせたいわゆる「お茶会」が開かれました。
この「お茶会」で謎に包まれたスコッチの自決の真相が赤井の口から語られているのかもしれません。
「工藤邸でのお茶会」の考察記事はこちら。